ああ…この「もちろん知ってますよね感」が出る名作は怖い
今更読んでないとは言えない名作文学!
とはいえ、忙しいことや抵抗感があってまだ読めてない人、昔読んだことがあっても忘れてしまった人なども多いのではないでしょうか。
そんな人に向けて、その名作を中田敦彦のYouTube大学で取り扱っていましたので感想含めて説明していきます。
累計発行部数700万部超えの「日本で一番売れた小説」と名高いこの名作のあらすじや、なぜそこまで圧倒的な評価をされているのかも含めて分かりやすく迫っていきます。
自分には価値がないと考えている先生。
その先生の不思議な魅力にとりつかれた主人公。
この二人が交流を持つことによって先生の心が徐々に紐解かれていきます。
先生と私
時代設定は明治時代末
自分の将来に対してモヤモヤしたものを抱えていた学生の「私」が「先生」と出会ったのは鎌倉の海水浴場でした。
先生は当時珍しかった外国人と共に西洋風な水着を着ていたこともあり、人で溢れている海水浴場でも目立っていました。
先生といっても単に主人公がそう呼んでいるだけで実際は海で偶然出会った男だよ。
「兄貴!」って呼ぶみたいな感じか
思い切って話しかけたことをきっかけに先生との交流が始まります。
そして先生の家族である奥さんも含めて徐々に親交を深めていきますが、時折見せる先生の不思議な悲しい雰囲気に触れていきます。
- 恋は罪悪
- 人は信用できない
- 金は人を変える
私はそんな陰のある先生に惹かれながらも思わせぶりな態度をとられ、わだかまりを抱えて毎日を過ごしていきます。
謎の多い先生ですが、奥さんにから聞いて分かったこともあります。
- 先生は頻繁に墓参りに行っている
- 先生はある日を境に変わってしまった
これらの情報から
「お金」「命」「恋愛」に関する何かしらの出来事が先生を大きく変えてしまい、そしてそれが人間不信や、影・絶望感という先生の悲しい雰囲気となってしまった。
ということが推測されます。
何か悲しいトラウマがあったんだな
両親と私
学校を卒業した私は田舎の実家に帰ることになりました。
その後、私の父親が病気にかかってしまいます。病状はそこまで深刻ではありませんでした。
そんな最中、明治天皇の崩御の知らせを受けると、病気の父はだんだん元気がなくなり体調が悪化していきます。
母親は衰弱していく父を見て私の将来を心配し、その先生に就職先を紹介してもらうようにお願いの手紙を書くことを勧められ、先生に手紙を出しますがなかなか返事が来ません。
主人公が地元に帰って手紙送ったけど返事来ない編
そして父の容体がいよいよとなった頃、先生からの手紙が届きます。
先生からの手紙には
「あなたがこの手紙を手に取るころには、私はこの世にいないでしょう」
そう記されていたのでした。
え?就職の返事じゃなく遺書?
そうです。そしてここからの遺書こそが「こころ」という作品の全てと言っても過言ではないのです。
これまでの話は前振りみたいなものだよ
先生と遺書
なぜなのか、と私は手紙を読み進めていきました。
そこには先生がなぜ自分自身のことを価値のない人間だと思うに至ったのかという過去が記されてました。
先生は病気で両親を亡くし、その遺産を相続することになりました。そしてその遺産の管理を叔父に任せていました。
ところが、その叔父がその遺産を流用していたという事実が明らかになります。
信用していた親族に裏切られたという事実が「人は信用できない」に繋がっていたのです。
ひどく傷ついた先生はその後、ある家に下宿を始めました。そしてそこの下宿先の娘にだんだん心を開いていきます。
そんな中、友人Kに同じ下宿先を紹介します。Kとは同郷の知り合いで、親友とも呼べる間柄でした。
ところがこの二人の仲はこの一人の女性によって引き裂かれることになります。
ある日先生はKに「下宿先の娘を好きになったから応援して欲しい」という話をされます。
先生は親友からの相談に表面上承諾したものの、実際の心境は違っていました。
それからしばらくして、娘の母親に「娘さんを僕にください」と先手を打ちます。
結果、先生は親友のKを裏切って彼女と結ばれてしまうのです。
そのことを間接的に知ったKは、祝福の言葉を述べるものの、数日後に自ら命を絶ってしまいます。
彼女はなぜKが自ら命を絶ってしまったのか分かりませんが、先生にはハッキリと動機が分かっていました。
それから先生はずっと苦悩を抱えながらも彼女と結婚して生活を営んでいたのでした。
遺産のことで「人は信用できない」と叔父を恨んでいた…そんな自分自身が人を裏切っているという事実。
- 人とはなんて信用できない生き物なんだという絶望感
- 恋と言う罪悪を犯し、親友を死に追いやってしまったという罪悪感
これらが先生の悲しい雰囲気の正体だったのです。
手紙の最後には、
- これらのことを誰にも(妻にも)言わないでくれというお願い
- これ以上この苦しみを背負い生きている訳にはいかないので自ら命を絶つ
ということが記されており、私が手紙を読み終えると共に物語も終わるのです。
まとめ
どうでしたか?
学校の教科書などでも出てくるこの物語は、三角関係のラブストーリー的な感じで教えられ、そういった感想も多い中で、
「先生も、友人も死ぬ必要があったのか」など登場人物の心理が理解できずに作品そのものがよく分からないという意見も見られます。
夏目漱石が作品を通して何を言いたかったのか…
ポイントとなるのは
父が衰弱するきっかけでもあり、手紙の内容にもあった
「明治天皇の崩御と乃木希典の殉死」
この大事件に当時の人々も意見が分かれました。
- あっぱれ!忠義の男派
新渡戸稲造や森鴎外らは見事だと絶賛 - 死んでとうする?派
志賀直哉や芥川龍之介は時代遅れだと批判
西南戦争から長年死に場所を探し求めていた乃木希典を自分と重ね合わせていたという先生は私に向けて「(この行動を)君が理解できないのだとしたらそれは時代の移り変わりである」と書いています。
赤穂浪士の討ち入り(主君の敵討ち)などで知られる江戸時代の道徳(儒教の流れを組む「朱子学」という教えが基礎)が色濃く残っていた明治時代。
この「封建的道徳」が「西洋的個人主義」に変わっていったのが明治末期から大正にかけてなのです。
先ほどの乃木希典の殉死への意見が分かれたというのも、
- 封建的道徳か
- 西洋的個人主義か
という考えの違いによるものです。
そんな明治時代のけりを付けるということをテーマにして、先生のラブストーリーに明治と大正の移り変わりを落とし込んでいる作品なのです。
そしてこの「こころ」という作品の面白いところは、現代の人が読んでも理解できないという現象の部分です。
かつてサムライが切腹していたということを現在の人間は誰も理解できないですよね。
この理解できないことこそが
- 時が流れたこと
- この国の歴史
を強烈に示しているのです。
しかもそれが日本で一番売れている本だという事実
この乃木希典の殉死は実際にあった事件です。そしてその実際にあった出来事はもう既にその感情が理解できないほどに時代が流れてしまっています。
とはいえ、先生と友人のそこに至るまでのこころの苦悩や悩み・孤独感など現在の我々にも共通する部分があるのかも知れません。
「こころ」という作品は、この物語を通してどれくらい国の考え方が変わるのか、その時代の人間の悩み・正義・道徳とは一体何なのか?変わらないものとは?ということを考えさせてくれるタイムカプセルのようなものになっているからこそ現在にも残る名作と言われているのではないでしょうか。
今の常識や価値観なども100年後の未来では一体どうなっているのでしょうか。
読書好きな方はこちらもどうぞ▼
本編動画はこちら▼