近年、営利を追求し過ぎるといった資本主義が問題視される中、企業は人権問題や環境問題への姿勢・取り組みなど倫理感を求められるようになりました。
SDGsなどの取り組みもその一つだよ
そんな中、今改めて注目されているのが渋沢栄一なのです。
2021年にはNHK大河ドラマ「青天を衝け」
2024年には新一万円札
と大注目の渋沢栄一「論語と算盤」について中田敦彦のYouTube大学で取り扱っていましたので、感想も含めてまとめていきたいと思います。
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渋沢栄一
渋沢栄一は、江戸末期から明治の時代を彩った日本の偉人です。尊王攘夷の志士・幕臣・明治政府の官僚・財界人と立場を何度も変え、海外の株式会社の概念を日本に導入することで近代日本の発展に大きく寄与しています。
設立に関わった企業は誰でも知っているような大企業も含め約500社にものぼり、現在の日本ビジネスの礎をつくりました。
これが「日本資本主義の父」
実績がハンパねえな
そんな彼は人がより良く生きるには論語が必要だと言っています。
彼が大事にした「商道徳」という考えは、儲けを独占したりせず、人としてどうあるべきかという礼節・道徳を重んじるもので、その道徳観のベースになっているのが「孔子の論語」なのです。
孔子
古代中国(春秋戦国時代)の思想家。彼の死後その弟子たちによってその教えは儒教として受け継がれていく。日本に伝来したのは江戸時代頃だと言われる。
論語
孔子の言行録を主とした儒学・儒教の経典
古代中国における道徳や哲学を唱えた
時代背景
まずタイトルが秀逸ですよね。「論語」(道徳)と「算盤」(商売)という一見真逆のものを一つのタイトルに入れ込んでいます。
- 算盤(商売)役に立つけど卑しい
- 論語(道徳)ありがたいけど役に立たない
この真逆という印象は当時の方が強かったかもしれません。
江戸時代では
- 武士は年功序列・親子の在り方・仁義など侍用の儒教(朱子学)を学ぶ
- 卑しいお金儲けをする農工商には道徳教育は要らない
と商売と道徳がハッキリ分かれていました。
ところがその後、明治維新によって武士(道徳)がいなくなります。
そして儒教という道徳の代わりに入ってきた新しい西洋の化学によってお金儲けのことしか考えられない日本人が多くなってしまったことを憂いた渋沢栄一が「商売と道徳を合体させて私が教える」と言って始まるのが論語と算盤(失われた日本の精神教育)なのです。
論語と算盤
「論語と算盤」について簡単にまとめると
商売をするなら論語から「人としてどうあるべきか」という人格形成を学び、道徳(論語)と商売(算盤)どちらか片方だけでなく、両方をバランス良く意識することが大切。
という内容です。
全容としては10章に分かれていますので細かく見ていきましょう。
- 大事な部分はこの①~③に詰まっています。
- ④~⑨については今までの侍用儒教についての誤解と修正、細かいエピソードなど。
- 最後の⑩は人生とは何かという結論。
①処世と信条
ここでは上手く世の中を渡りつつも、自分が信じていることを曲げないための考え方を教えてくれます。
自分の信念を貫くためにはときに争うことは必要としたうえで、敵に勝ったとしても調子に乗るなということを言っています。
論語(道徳)と算盤(商売)は遠いようで近いもの。「士魂商才」が大事で、一緒じゃないと意味がないと言っています。
あの徳川家康の残した遺言・教え(神君遺訓)も実は論語の寄せ集めなのです。
徳川家康って勉強家だったんだね
だからこそ江戸幕府は260年も続いたんだろうね
人間観察法(視・観・察)
- 視 先ずはその人の外側(行動)
- 観 次はその動機
- 察 最後は(その人が)何に満足や喜びを得ているか
蟹穴主義
蟹は自分の甲羅の大きさの穴を掘って暮らす。つまり自分の身の丈に合った夢や生活を志すことが大事。
自分の得意な事で社会貢献することが、その人の満足であるべきであって、名誉心・功名心から自分の分を超えて手を出してはいけないと言っているのです。
分相応ってやつだね
これだけ実績を残している渋沢栄一が言うから余計に説得力があるな
②立志と学問
ここでは目標を立て、それを達成しようとすることや学問を学ぶことの重要性を教えてくれます。
目標を立てることに関して「大きな志」と「小さな志」という言葉で表しています。
- 大きな志⇒一生をかけて達成したいと思う目標
- 小さな志⇒大きな志を達成するための手段のようなもの
大きな志を正しく立てるには?
「自分が何をしたら良いのか分からない」「夢が見つけられない」という若者に向けて、「若いうちは漠然としたもの(気持ち)で良い」と言います。
渋沢栄一も自分の能力に気づくまでに時間がかかったようで、いずれ自分の向き・不向きや長所・短所を時間をかけて把握したうえで「どのようなことで社会貢献が出来るのか」ということが分かったタイミングが立志なのだと言っています。
また、学問に関しては幅広く教養を身につけることが良いと言っています。
③常識と習慣
ここでは良い常識と習慣を身に着ける必要性を教えてくれます。
夢を叶えるために何が必要か?
それは「常識と習慣」です。ここで言う「常識」とは我々が思う一般常識ではなく、コアになる品格のようなものです。
その常識を兼ね備えるには 知恵・情愛・意思が必要とし、
「意志ある者が知恵を身につけ、そのうえで情愛を持って分けていく
これが出来て初めて『全き人』になれるのだ」
として、秀吉と家康の比較をします。
意思もあり、優れた知恵もある秀吉は天下統一という大成功を成し遂げますがその力を上手く継承出来ず、豊臣の世は続きません。
一方、神君遺訓でも知られるように論語を勉強している家康は意思・知恵だけでなく情愛を持って適材適所な配置・五人組制度など人のコントロールに長けた政策もあり徳川幕府は長きに亘り続いていくのです。
短期的な結果であれば「偉き人」として何か足りない状態でも成功することも可能かも知れません。ただそれは最終的に本当の成功とは言えないとして「全き人」と「偉き人」は違うと言っています。
全き人として知恵・情愛・意思を兼ね揃えるには毎日の習慣が大事。
良くも悪くも習慣が人を作るのです。
成功者を妬む人は「成功者は成功に至るまでにどれだけの努力をしているのか」ということを分かっていないのです。
成功者の陰には毎日の積み重ね・習慣があります。さあ、あなたも今日から良い習慣を始めましょう。
④仁義と富貴
ここからはさらっといくよ
ここでは道徳を守ったうえでのお金儲けは正しいことだと教えてくれます。
仁義(道徳)と富貴(お金)は違うとされている宗教や哲学が多い。
その中でも卑怯なやり方で稼いだお金であれば貧しい方が良いとされる考えはあっても、お金儲けそのものが悪いという考えとは違う。「よく集めよく散ぜよ」正しく儲けて正しく分散することがが大事だと言っています。
⑤理想と迷信
ここでは現実的な発想を持って行動せよということを教えてくれます。
「人はどうあるべきか」という道徳的な本当に大切なことは変わらない
⑥人格と修養
ここは人間性を磨く大切さとその方法を教えてくれます。
渋沢の考える素晴らしい人格とは「私利私欲に走ることなく、周りの利益も考え、冷静な判断の元に行動できること」だと言えます。そのために必要なことは
- 良心的であること
- 信頼されること
- 親や年長者を敬うこと
人格とは日々の心がけの在り方であり、人は変われると言っています。
例として松平定信・西郷隆盛・乃木希典が出てきます。
⑦算盤と権利
お金儲けには当然競争(争い)が起きるし、自分の権利も主張して良いということを教えてくれます。
孔子とキリスト教を比較しながら
右の頬をぶたれたら左の頬を…というキリスト教の考えとは違い、やはり勝たなければいけないときがあるとしたうえで、勝ったうえでみんなのために使うことが大事
「優しいだけでなく強さも必要」と言っているのです。
⑧実業と士道
私利私欲のために動く人間が多いことを嘆きながら、実業(自分の仕事)は武士道だと主張して、その武士道(道徳)は全ての人に必要なものと言っています。
⑨教育と情誼
ここでは教育と孝行のあるべき姿について書かれています。
親孝行は子どもに強いるものではないし、それぞれの形がある。
教育については、名のある者に志願して教育を受ける時代から皆が同じ教育を受けられる時代へ変わっていくが、同じように皆が等しく成功する訳ではない。残念ながら能力・才能には差があるが、その能力に応じた出来ることで社会に貢献することが大事。
⑩成敗と運命
「成敗と運命」とは自ら道を切り開く意思を持って行動することで、良い人生を全うできるということを教えてくれます。
物事の結果を運のせいにすることを嫌う渋沢は
成功や失敗を運のせいではないとしたうえで「そもそも成功や失敗にこだわることが間違っている」と言います。
歴史の偉人を例にして小さな成功や失敗は一瞬だが、その人がどのように生きたかの方が大事ではないのか、天命(何を志し、何のために生きるのか)さえブレなければ成功や失敗は関係ない。
みんなのために自分のできることをやろう
まとめ
どうでしたか?
日本資本主義の父と称される渋沢栄一の理念や信念などに触れ、「だからあんな偉業を成し遂げることができたのか」と納得されたのではないでしょうか。
私の一番心に響いたのは「蟹穴主義」という部分です。欲に目が眩んで自分の身の丈以上のことに手を出さずに自分の得意な事で貢献することが、その人の満足であるべきという考えはとても共感することが出来ました。
論語のような道徳的なことは時代が変わっても変わらないからこそ、その道徳観をベースにしている「論語と算盤」は今の時代においても教養書として読み続けられるのだと思います。
普通商売で儲けようと思ったら「多少であれば道徳に反することでもしょうがない」と考えてしまいがちです。逆に道徳ばかりを考えていたら倒産してしまうかも知れません。
この相反するものを
「論語か算盤」ではなく
「論語と算盤」として
どちらも大事だとする考えは今の時代に必要な持続可能な企業や社会の在り方なのかも知れません。
論語と算盤とは失われた日本の道徳教育である
欠点のなさそうな渋沢栄一だけど
女性関係はだらしなかったらしいよ笑
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