……古事記?
ユダヤ教やキリスト教における聖書のような存在
「日本版聖書」とも言えるこの「古事記」を我々日本人はよく知りません。
断片的に聞いたことはあっても多くの人がその全容を知らないのです。
そしてそれがなぜか?ということが歴史と大きく関わってくるのです。
えー気になる!
古事記とは日本最古と言われる物語で上中下の全3巻で構成されています。
- 上巻は天地創成~天孫降臨までの神々が日本を作り上げる神話を語り
- 中巻でその神の子孫である神武天皇~応仁天皇までの日本を平定していく実績があり
- 下巻では仁徳天皇~推古天皇までの日本平定後の大和政権の話が記されています。
つまり「神様が日本を作り、その神様の子孫こそが天皇家」という物語になっています。
ラストの推古天皇・聖徳太子とかその辺りは歴史で習うよね
その前の話だからエピソードゼロ的な感じか
ギリシャ神話や北欧神話にも匹敵する、日本の神々の物語「古事記」
中田敦彦のYouTube大学で取り扱っていましたので感想含めて分かりやすく説明していきます。
あらすじ①天地創成と国生み
古事記では混沌とした世界に神が生まれるところから物語は始まります。
まず造化三神(ぞうかさんしん)と呼ばれる3柱の神が生まれ、続いて現れた2柱を加えた5柱を「別天神」(ことあまつかみ)と呼びます。この5柱はまだ男女の区別のない「独神」(ひとりがみ)と言われる存在です。
その後、独神の神2柱、男女の神5組が現れます。この神々を「神世七代」(かみよのななよ)と呼びます。
そしてこの神世七代の中で最後に現れた男女の神こそが「イザナギ」と「イザナミ」です。
あ、なんか聞いたことある
この「イザナギ」と「イザナミ」2柱の神は他の神々から国づくりを任せられます。
2柱の神は天界から世界を掻き混ぜ、地上に降り立ち、互いに交わることで島を生み出していきます。最初に生み出されたのが今の淡路島で、次々と8つの島が生まれます。この最初に生まれた8つの島を「大八島」と言い、この「大八島の国」が日本の元になったと言われています。
国生みの後は神生みが始まります。たくさんの神を生み続け、最後に火の神を生むときにイザナミがその火で亡くなり黄泉の国へ行ってしまいます。激怒したイザナギはなんと生まれたばかりの火の神を切り殺します。
「人類は火を扱えるようになった代償として何かを失ってしまう」的な話って他にもあるよね
あらすじ②黄泉の国と禊
寂しさのあまりイザナギはイザナミを追いかけて黄泉の国へ向かいます。
黄泉の国についたイザナギは扉越しにイザナミに会い、一緒に戻れるように奔走しますが、「こっちを見ないで」というイザナミとの約束を破り、その姿を見てしまいます。
出た!昔話あるある「こちらを見ないで⇒見ちゃう話」
約束を破られ自身の醜い姿を見られたイザナミは魔物を追手に放ちイザナギを追いかけます。イザナギは必死で逃げ、桃の力を借りてなんとかイザナミから逃げ延びました。
黄泉の国との出入口を大岩で塞がれたイザナミは「現世の神を毎日1000柱死なせてやる」と呪いの言葉を放つと、イザナギは「それなら私は毎日1500柱生む」と応えます。
こうしてこの日本には1日に1000の死と1500の生というものが根付いていったのです。
黄泉の国から戻ったイザナギは禊(みそぎ)として体を清めます。そしてその清めた体から色々な神が生まれていきますが、その中で「三貴子」と呼ばれる特別な神が生まれます。
イザナギはこの三貴子にそれぞれの世界統治を託します。
- アマテラス(太陽神)には天上世界
- ツクヨミ(月の神)には夜の世界
- スサノオ(荒神)には海の世界
あらすじ③制約と天の岩戸隠れ
そして物語はこの三貴子がメインになっていきます。
なぜかツクヨミは今後一切登場しないけどね
三貴子なのに?
海の世界を任されたスサノオでしたが、黄泉の国に行ったイザナミに会いたいと喚き、全く海の世界を治めようとしません。イザナギは怒ってスサノオを追放します。
だから治める神がいなくなった海は荒れているんだよ
追放されたスサノオはアマテラスの治める天界に向かいます。
荒々しいスサノオが来ることをアマテラスは警戒・武装して待ち構えますが、そんなアマテラスにスサノオは悪さをしないと約束します。そして制約(うけい)という儀式を行い、身の潔白を証明するのでした。
天界に住むことになったスサノオでしたが、結局暴れてしまいます。
その横暴ぶりに困り果てたアマテラスは天岩屋戸(あめのいわやど)に隠れて出てこなくなってしまいました。
太陽の神であるアマテラスが隠れてしまったことで世界は闇に包まれてしまいます。
一説によるとこれは「日食」を表していると言われているよ
困った他の神々は知恵の神「オモイカネ」に相談して、祭りを催しアマテラスの気を引いて外へ引っ張り出そうという作戦を授かります。こうして岩の前にて皆で歌い、踊り、大騒ぎをすることでアマテラスを外へ出すことに成功するのです。
こうして世界に光は戻りましたが、暗闇の原因を作ったスサノオは天界を追放されて下界(地上)に落とされてしまうのでした。
この祭りで使用された八咫鏡(やたのかがみ)と八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は現在の皇室にも伝わる三種の神器にもなっています。
また、外に出たアマテラスがまた入らないように天岩屋戸を封印した縄が、現在にもある神社の「しめ縄」の起源であり、ここから先は神聖な場所だという目印として使われたと言われています。
あらすじ④八岐大蛇
天界を追放されたスサノオが地上に降り立った地が「出雲の国」でした。
そこで泣いている親子と出会います。なぜ泣いているのか尋ねると、ヤマタノオロチという怪物に娘を毎年食べられていて、今年はその娘の番なのだと言います。
娘の名前はクシナダヒメ。その美しさに恋をしたスサノオはヤマタノオロチを退治するから結婚させて欲しいと申し出ます。
いきなり求婚かい?
こうしてヤマタノオロチを退治するための準備が始まりました。8つの頭がある怪物のために8つの強いお酒をそれぞれ8つの門に用意します。
そして現れたヤマタノオロチはその酒を飲んで酔っ払い寝てしまいました。スサノオはその隙に見事退治することに成功します。
この時、ヤマタノオロチの体の中から出てきたのが残りの三種の神器の一つ草薙剣(くさなぎのつるぎ)でした。スサノオはこの剣を、迷惑をかけたアマテラスに捧げることにします。
その後スサノオはクシナダヒメと結婚し、子宝にも恵まれ幸せに暮らしました。
あらすじ⑤因幡の白兎とスサノオ試練
そして時代は流れ物語はスサノオとクシナダヒメの子孫の話になっていきます。
何代も後の子孫にオオクニヌシという神がいました。
このオオクニヌシにはたくさんの八十神(やそがみ)という腹違いの兄弟たちにいつもいじめられていました。
この兄弟たちはヤガミヒメという美しい女神に惚れ込んでおり、ある日全員でプロポーズに出かけることになります。
全員で?さすがに迷惑じゃない?
道中で八十神たちは、肌を真っ赤にして泣いている兎に出会います。
兎の話では、サメを騙して浮島にして海を渡ろうと思ってそうとしていることがバレて、怒ったサメに毛をむしり取られ痛くて困っているというのです。
意地の悪い八十神たちは「海水に飛び込んで風に当たれば治る」と嘘をつき、それを信じた兎はもっと痛い目に遭います。
最後尾を歩いていたオオクニヌシはそんな兎を発見します。
優しいオオクニヌシは適切なアドバイスをすると兎の傷はみるみる治っていきます。
兎は「あなたがヤガミヒメと結婚するでしょう」と予言し、なんとその予言が的中することになります。ヤガミヒメは八十神たちではなく、結婚相手にオオクニヌシを選んだのでした。
ところが、ヤガミヒメを奪われた八十神たちの怒りは収まりません。なんとオオクニヌシを殺してしまうのです。
オオクニヌシの母親からの願いを聞き入れた天界の神によってオオクニヌシは生き返りますが、再び殺されます。再度生き返ったオオクニヌシは身の危険を感じ、黄泉の国に向かいます。
なんか、生き返れるとか最初と設定違ってきてない?
古事記は各地の色々な話をまとめているから矛盾点とか結構あるよ
オオクニヌシは黄泉の国で自身の先祖であるスサノオとその娘スセリヒメ出会います。
オオクニヌシとスセリヒメはお互いに一目惚れとなりますが、そこから父であるスサノオによる試練が始まります。蛇や蜂、ムカデの部屋で寝かせたり、野原に火を放って追い詰めたりします。
いやいや、やり過ぎじゃない?
しかし、オオクニヌシはそんな試練をスセリヒメやネズミの助けもあって乗り越えていきます。そしてスサノオの隙をついて、なんとか逃げ出すことに成功します。
なんだか童謡の「ジャックと豆の木」の話に似てるよね
竪琴を鳴らしてバレちゃうところもそっくりだ
そして最後にはスサノオが「娘を大事にして出雲はお前が治めろ」とエールを送り、オオクニヌシたちは出雲の国に帰っていきました。
こうして国に戻ったオオクニヌシは国を治め、出雲の国は発展していくのでした。
あらすじ⑥国譲り
スサノオの子孫であるオオクニヌシが出雲を治めていることが気に食わない天界のアマテラスは自分の子孫が治めるべきだと出雲へ使者を遣わします。
最初の使者はオオクニヌシに懐柔されて3年も音信不通、2番目の使者は8年も音信不通のうえ裏切りという結果に終わります。
なかなか上手くいかないアマテラスはついに幹部を送ります。第3の刺客に選ばれた「刀の神」はオオクニヌシやその息子たちに国を譲るよう迫ります。息子の一人と力比べとなりますが、もちろん刀の神には敵いません。
そしてついに出雲の国を譲ることになるのです。
ですが、オオクニヌシはスサノオから言われた言葉を思い出し、
国譲りを承諾する条件として大きな社の建築を要求します。
こうして建てられたのがオオクニヌシを祀る出雲大社だと言われています。
あらすじ⑦天孫降臨と結婚
オオクニヌシから国を譲り受けたアマテラスは孫であるニニギを三種の神器と共に地上世界に送り、国を治めることにします。
降り立った場所はなぜか出雲ではなく宮崎県の高千穂だと言われています。
そこでニニギはサクヤヒメという美しい姫と出会います。
なんか、姫と出会う話多いな
すぐに結婚することになりましたが、姉のイワナガヒメも一緒に嫁がせることになりました。
え?嫁2人?
実は、花のように栄えるサクヤヒメと、この長寿のイワナガヒメは2つでセットだったのです。
ですが、そんなことを知らないニニギは、美しい妹に比べ醜い姿をしていたイワナガヒメを実家に送り返してしまいます。
この長寿の象徴であった姫を無くす行為によって、神にも「寿命」というものが出来たとされています。
こうしてニニギやその子孫たちは、繁栄はするがいずれ寿命を迎えるという体になり、これが「神から人への変わり目」だとされています。
そしてそのニニギとサクヤヒメの子孫が初代天皇「神武天皇」となる。というところで上巻が終わります。
あらすじ⑧大和政権と遠征
初代「神武天皇」が苦難の末大和政権を樹立してから12代目の「景行天皇」の子供に後の「ヤマトタケル」がいました。
ヤマトタケルの激しい気性を恐れた景行天皇は九州の熊襲(くまそ)討伐を命じます。
討伐を命じられたヤマトタケルは
- 女装で宴会に忍び込んでクマソタケルを討伐(このときにタケルの名を授けられます)
- 出雲では自分の木刀と相手の刀を取り換えてイズモタケルを討伐
と、次々と討伐して大和へ帰還します。
そんなヤマトタケルへ景行天皇は直ぐに東国征伐を命じます。
「誉め言葉もなく、すぐに次の討伐命令か……父は私に死ねというのか」
ヤマトタケルは複雑な心境でしたが東国討伐へ向かいます。
道中、草薙の剣で危機を脱したりしながら遠征を続けていきますが、ある山攻めの際に山の祟りにあってついに命を落としてしまいます。そしてヤマトタケルは白鳥となって天へ飛び立っていきました。
生きていれば天皇となっていたであろうヤマトタケルは父の愛に恵まれずに、数々の伝説を残して天に昇っていったのでした。
そしてそのヤマトタケルの息子が14代「仲哀天皇」として即位します。
この仲哀天皇の妻である「神功皇后」にアマテラスが憑依します。
アマテラスは神功皇后の体を介して「新羅(朝鮮半島)を攻めろ」と言いますが、仲哀天皇は難色を示します。
すると、そのご神託を疑った罰として仲哀天皇は命を落としてしまいます。
残された神功皇后はアマテラスのご神託どおり新羅を攻め平定します。
こうして日本は豊かになっていったのでした。
その後、脈々とその血は受け継がれ33代「推古天皇」に至るのです。
なぜ日本人は古事記を知らないのか?
そんな古事記は天武天皇によってスタートしたプロジェクトの一つでした。
古事記と並び称される「日本書紀」と合わせてこの二つを「記紀」と呼び、ワンセットに扱うという考え方もあります。
当時の天武天皇はようやく豪族を抑えるも、「壬申の乱」による内輪揉めなどで国内はかなり疲弊していました。
また、隣国からは繁栄している唐の脅威もあります。
この問題に対して対策をする必要がありました。
645年~大化の改新として
- 日本最初の元号となる「大化」を定める
- 「倭」(わ)と呼ばれていたこの国を「日本」とする
- 「大王」を「天皇」とする
こうやって豪族ではなく天皇を中心とした政治に移り変わっていき、この国のアイデンティティを確立するために、国内・国外それぞれに向けて行った大きなプロジェクトこそが古事記と日本書紀だったのです。
つまり古事記と日本書紀とは
中央集権化と朝廷権威強化のための2大ストーリー&ヒストリーだったのです。
そんな古事記と日本書紀ですが、戦国時代~江戸初期辺りまでは日本書紀がメインであり、古事記はサイドストーリー的なサブテキストでした。
しかし、江戸時代中期に「本居宣長」という国学者が「古事記伝」という解釈書を出版してからは古事記に注目が集まり出します。
そして時代は明治に変わり、明治政府は今までの江戸幕府の儒教(朱子学)のような教えではなく、新しいやり方で天皇を中心とした国作りを目指します。そして海外視察でキリスト教を歴史として教育する欧米諸国のやり方を知ります。
アメリカではキリスト教を否定するとして進化論を教えない州もあるらしいよ
神話から歴史を繋げて教えると国は一層チームワークが強くなるということを学んだ明治政府によって選ばれたのが
古事記を使った「国家神道」というやり方でした。
そしてこの時期から古事記・日本書紀は教科書に掲載されるようになります。
そしてそこから日本は大戦の時代に突入していきます。天皇を中心とした軍国主義が強くなってくると、この古事記のストーリーを事実として教え、それを否定しようものであれば国家に対する反逆であるとされ、言論統制される時代となっていきます。
そして敗戦後
「この神話の教え方と軍国主義はあまりにも結び付き、日本を神の国だという考えが戦争に導いたのではないか」
とされ、GHQによって一気に教科書から古事記・日本書紀が排除されます。
なるほどね
ここまで古事記・日本書紀がどのような思惑で作られて、どんな経緯で注目されていき、どんなことに利用されて、なぜ排除されたのかを学んだうえで
そして現代……
排除され過ぎた時期は過ぎ、古事記・日本書紀について自由に議論ができる時代となってきました。
そんな今だからこそ、この2冊を学ぶのが面白いと言えます。
まだまだ謎の多く、研究や議論のし甲斐がある日本最古の書物
そこには私たちが歴史で習っていない「空白の歴史」が詰め込まれています。
出雲の大社の大きな「しめ縄」が通常とは逆向きである謎
出雲大社の参拝方法が違う謎
○○神宮=天皇家直轄の神社。出雲は直轄ではない?
こうしたことから出雲には出雲政権と呼ばれる別の大きな政権があり、そこを倒したであろう天皇家(大和政権)と大きな戦いがあったのではないか。
古事記の壮大な物語の中には一切「富士山」が出て来ません。ヤマトタケルの遠征で付近に行っているはずなのに……。
これは「敵対する東国の民が崇拝している山だったから」という説があります。
古事記という物語は天津神(天界からきた神)VS国津神(国に元々居た神)という対立構造になっています。そして活躍するのは天津神で国津神たちは脇に追いやられて消えていきます。そう考えると敵対する民族の御神体だったから富士山をあえて無いものとしたという説も説得力が出てくるような気もします。
中国の魏志倭人伝で出てくる「邪馬台国」が古事記に出て来ないのは何故?
富士山のように無いものとした?登場している何か(大和政権・出雲政権)のことを言っている?
卑弥呼は?神功皇后では?アマテラスでは?登場していない?などたくさんの説があります。
歴史の中に含まれていること、省かれていること、暗示されていること
まさに日本の聖書とも言える研究し甲斐があるストーリーだと思いませんか?
この物語は歴史と繋げていますが、では
- 「一体どこからが本当に実在する天皇なのか」
- 「どこからが実際の歴史なのか」
ということも興味深い疑問です。
古事記というポーネグリフ(歴史の本文)を解読して空白の歴史を知る……まるでワンピースの世界!
……
またこの古事記だけでなく、ギリシャ神話やエジプト神話など他の国の歴史や宗教を学ぶと様々な共通点などもあり面白さが広がると思います。
そしていつの日か私たちはこの国の真実を知る日が来るかも知れません。
この国の真実というワンピース(ひとつなぎの大秘宝)をね♡
あ、最後のってくれた
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